ワールドカップでも雇用は増えなかった?~「大型イベント=雇用増」の常識が変わり始めている~
2026年のFIFAワールドカップは、アメリカ・カナダ・メキシコの3か国共同開催という史上最大規模の大会となりました。
今回のワールドカップでは32か国開催となり、大規模でなおかつ長期期間の開催となりました。
ワールドカップのような国際的なスポーツイベントでは、試合観戦だけでなく、宿泊、飲食、交通、ショッピング、観光施設など、さまざまな業界で消費が活発になります。そのため、ホテルやレストランでは接客スタッフを増員し、空港や公共交通機関では運営体制を強化し、小売店やイベント関連企業でも臨時スタッフを採用するなど、多くの雇用が生まれると考えられてきました。
FIFAの経済波及効果の試算では、約18万5,000人の新規雇用が創出されるとの見通しも示されていました。
しかし、実際に公表されたアメリカの雇用統計を見ると、その期待とは異なる結果となりました。
雇用統計が示した「期待外れ」の結果
これまで大型イベントが開催されるたびに、「人手不足になるから採用を増やす」という考え方が一般的でした。しかしながら、結果はその真逆の数位となり企業は人を増やすのではなく、既存の人員配置の見直しやデジタル技術の活用によって需要に対応したケースが多く見られました。つまり、「需要が増えれば雇用も増える」という従来の前提そのものが変化し始めていることを示唆しているのです。
2026年6月の米国雇用統計では、
- 非農業部門雇用者数は5万7,000人増
- レジャー・宿泊・飲食業では6万1,000人の雇用減少
という結果になりました。
ワールドカップ開催期間中にもかかわらず、観光業や飲食業で目立った雇用増は確認されませんでした。
大会前に期待されていた「ワールドカップ特需」は、少なくとも雇用統計上ではほとんど見られなかったと言えます。
観光客は増えたのになぜ雇用は増えなかったのか
もちろん試合開催都市では多くのサポーターが訪れ、
- ホテル
- レストラン
- バー
- 小売店
などでは売上が伸びた店舗もありました。
しかし、その一方で、米国全体として見ると海外からの旅行者数は前年並み、あるいは地域によっては減少しており、「ワールドカップによる観光需要」が通常の旅行需要を大きく上回るほどではありませんでした。
つまり、「ワールドカップの観光客が増えた」のではなく、「通常の観光客がワールドカップ客に置き換わった」という側面もあったと考えられています。
企業は「人を増やす」より「効率化」を選んだ
もう一つ注目すべきなのは、企業側の対応です。
数週間のイベントのためだけに新たな人材を大量採用するより、
- 既存スタッフのシフト調整
- AIの活用
- セルフレジ
- モバイルオーダー
- 業務効率化
などで対応した企業が少なくありませんでした。
以前であれば「忙しくなるから人を増やそう」と考えられていましたが、現在では「今いる人員でどう対応するか」という発想へ変化しています。
ワールドカップを経て得られた示唆
アメリカで起きたことであり他の国々と同様と考えることは難しいと考えられていますが今回の結果は、とても興味深い示唆があります。
これまでは、
- 景気が良くなる
- イベントがある
- 来客が増える
という状況では採用を増やすことが一般的でした。
しかし今後は、
- AIの活用
- DXによる業務改善
- 生産性向上
によって、「まず採用」ではなく「まず効率化」という考え方がさらに広がる可能性があります。
まとめ
ワールドカップという世界最大級のイベントでさえ、期待されたほどの雇用増にはつながりませんでした。これはイベントの失敗という話ではありません。
むしろ、企業の雇用に対する考え方そのものが変わり始めていることを示しているのではないでしょうか。
これからの人事には、「何人採用するか」だけではなく、「どの業務を人が行い、どの業務をテクノロジーに任せるのか」という視点が、ますます重要になっていくのかもしれません。
文責:田辺顕
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