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モラトリアムとどう向き合うか ~「自分探し」を支える上司の関わり方~

新入社員として配属された当初は意欲的に見えた若手社員が、数か月もすると「本当にこの仕事が自分に合っているのかわからない」と口にする方もいます。そんな場面に心当たりのある管理職は少なくありません。仕事に慣れてきたタイミングで、自分の適性や将来の方向性について悩み始める。いわゆる「モラトリアム期」に差しかかった部下を前に、上司は次のようなジレンマに直面します。

上司としては、業務の成果を求める一方で、部下の"内面的な成長の停滞"にも向き合わざるを得ません。特にZ世代の多くは、キャリアや人生の価値観を「やりがい」や「自己実現」と結びつけて捉える傾向があり、上司が従来の"指示と努力"のスタイルで接すると、かえって心が離れてしまうケースも見られます。

モラトリアムは「怠け」ではなく、「自分とは何か」を探る大切な過程。しかし職場においては、その"揺らぎ"にどう寄り添い、どう現実の成長へとつなげるかが大きな課題となっています。

モラトリアムとは何か

モラトリアムとは、本来「猶予期間」を意味します。心理学では、青年期に「社会的な自立や責任を持つことを一時的に先延ばしにしている状態」を指します。就職・結婚・独立などの重要な決断を保留にし、「自分に何が向いているのか」を模索している段階です。

また、モラトリアム傾向という指標があり、重要な決断をする際の保留期間が長ければ長いほど評価に影響すると言われております。現代ではこの傾向が20代後半〜30代前半にも及ぶケースが増えており、採用・育成の現場でも無視できないテーマになっています。

若手社員に見られるモラトリアム傾向のサイン

モラトリアム期にある若手社員は、明確に「迷っています」と口にするとは限りません。むしろ、日常のちょっとした言動や態度の中に、自分探しのサインがにじむことが多いものです。例えば、次のような傾向が見られたときは、モラトリアム状態に差しかかっている可能性があります。

  • 「まだ自分に何が向いているか分からない」と発言する
  • 与えられた役割よりも"自分らしさ"を優先する
  • 責任を負うポジションへの抵抗がある
  • 転職・副業・資格取得などに関心を持ち、迷走気味
  • チームより個人を重視する傾向が強い

上記のようなサインは、自己探索のプロセスが多いことが特徴です。

モラトリアム傾向が強まる背景

現代の若手社員が「自分は何者なのか」「この仕事でいいのか」と迷いやすくなっているのは、個人の問題ではなく、社会全体の構造変化によるものです。いくつかの背景が複合的に作用しています。

情報過多社会

 SNSを開けば、同世代がスタートアップで活躍していたり、海外で自由に働いていたりする姿が目に入ります。他人の「理想的なキャリア」と自分を比較しやすくなり、焦りや自己否定感が生まれやすい環境です。情報の多さが選択肢の豊かさをもたらす一方で、「自分は何を選ぶべきか」が見えにくくなっています。

成功モデルの多様化

かつては終身雇用が当たり前でしたが、今は転職、副業、フリーランス、起業など多様なキャリアが現実的な選択肢となっています。「どこに所属するか」よりも「どんな価値を出せるか」が問われる時代になり、若手は一層正解のないキャリアに迷いがちです。

教育環境の変化

近年の教育は、"答えを覚える"より"考え方を学ぶ"方向にシフトしました。そのため若手社員は、上司の指示をただ待つのではなく、「なぜそうするのか」「自分の意見を言いたい」と考える傾向があります。しかし、企業側の育成体制がまだ旧来型(指示・OJT中心)の場合、両者の間にギャップが生まれやすくなります。

失敗への恐れ

失敗したり、意見を間違えたりすると、SNS上での批判や社内での評価低下を過剰に意識してしまう若手も少なくありません。「間違えるくらいなら発言しない」「目立たず安全にいたい」という心理が働き、挑戦よりも無難を選びがちになります。

これらの要因が重なり合うことで、「自分の軸を持ちたいのに、選べない」「動きたいのに動けない」という若者が増えています。つまり、モラトリアムとは意欲の欠如ではなく、情報と選択肢の多さゆえに立ち止まらざるを得ない現象なのです。

モラトリアム傾向の期間と社会責任の関係

モラトリアム傾向は、決して「弱さ」ではありません。人生の分岐路の考え方を問われるため、猶予期間は必要となります。

しかしながら猶予期間を長期期間待てるほどの余力もないのも現実です。決断をせざる負えない状況にある中で避けるための猶予期間と判断されれば、採用や社内評価等に悪影響があると考えられます。自己探索の主軸からどのようにして社会的責任と向き合えるように転化することが重要課題となります。

人事・上司ができる支援のポイント

① 選ばせるより試させる

長期的なキャリアを決めさせるより、まず小さな挑戦を繰り返す機会を与えましょう。例えば、短期プロジェクトへの参加、兼務、社内提案制度 など取り入れると有効です。具体例としては、

こうした"安全に試せる場"を作ることが、自己理解と自己効力感を高める第一歩になります。

② 仕事の取組みにたいする"意味"を共有する

モラトリアム傾向の若手は、「何をするか」よりも「なぜそれをするのか」に共感したいタイプが多いです。上司が、日々の業務と組織の目的・社会的意義を丁寧につなぐことで、仕事への納得感と動機づけが生まれます。具体的には、

数字やKPIの先にある意味を見せることで、仕事が「作業」から「自己成長の場」へと変わります。

③ 対話を習慣化する

評価や指導ではなく、キャリア面談や1on1で気持ちを言語化させることが効果的です。「何がしたい?」ではなく、「どんな時にワクワクする?」といった質問が有効です。

④ 焦らせない

無理に覚悟を決めさせるような指導は逆効果です。本人のペースを尊重しながら、「今ここで得られる学び」を一緒に見つける姿勢が大切です。支援の例として、

「今ここでできること」に焦点を当て、時間をかけて自己理解を深めることが、結果的に自律したキャリア形成につながります。

組織に求められる考え方の転換

モラトリアム傾向は己理解を深めようとする力の現れでもあります。しかしながら自己主軸だけでは社会の豊かさや保てず、だからと言って 社会責任を背負いすぎるのも問題となります。

自己と社会のバランスが今後の大きな社会的争点に発展するかが7今後の重要指標になると考えられております。その際、企業に求められるのは、「すぐに即戦力になるか」ではなく、「学びながら変化できる人材をどう支援するか」という視点です。

まとめ

モラトリアム傾向は、決して「意欲の欠如」や「甘え」ではありません。それは、自分の軸を模索し、社会人としてのアイデンティティを築こうとする"自分探し"の自然な過程です。

上司や人事がすべきことは、無理に「覚悟を決めさせる」ことではなく、試行と対話の場を提供すること。小さな挑戦や安心して話せる場を通して、若手が自分の可能性に気づくきっかけをつくることができます。

そして何より重要なのは、組織全体で「個の探求を支える文化」を育むことです。社員一人ひとりが迷いながらも考え続けられる環境を整えることで、個人の成長と組織の持続的な活力が両立します。

モラトリアムは「止まっている時期」ではなく、「次の一歩を見つけるための時間」。その期間をどう支え、どう見守るかが、これからの上司のリーダーシップを問う重要なテーマとなるでしょう。

文責:田辺顕

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