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職場に潜むドゥームストリーミングの影響と人事の役割

近年、SNSや動画プラットフォームを通じて「終末的・破滅的なニュースや映像」を延々と見続けてしまう現象、いわゆる ドゥームストリーミング が注目されています。

気候変動、戦争、災害、社会不安――こうしたテーマを扱うコンテンツは、人々の不安を刺激し、視聴を止められなくさせる傾向があります。個人の心理的な問題にとどまらず、従業員の働き方や組織の生産性に直結する点で、人事担当者が無視できないテーマとなっています。

ドゥームストリーミングの心理的影響

慢性的な不安感の増大

ドゥームストリーミングとは、社会問題や災害、政治不安などのネガティブなニュースを、止められないまま延々と追い続けてしまう行動を指します。

この状態が続くと、脳は「脅威」や「危険」に敏感に反応するようになり、現実以上に世界が不安定で危険に満ちているように感じてしまいます。

いわゆる「世の中は悪化している」という認知の偏り(ネガティビティ・バイアス)が強まることで、未来への希望や自信といったポジティブな感情が弱まり、日常的に不安や恐れが付きまとうようになります。

このような慢性的な不安は、業務上の判断力や集中力にも影響を与えます。たとえば、リスクを過大評価して新しい提案に消極的になったり、同僚とのやりとりにも防衛的な姿勢を取るなど、心理的安全性の低下につながるケースも少なくありません。

ストレス増大と睡眠の質の低下

夜間、SNSやニュースアプリでネガティブな投稿や映像を見続けることで、心身は"常に緊張状態"を維持することになります。

脳が危険を察知するたびにストレスホルモン(コルチゾール)が分泌され、体は戦闘・逃走反応(fight or flight)に入ります。その結果、心拍数や血圧が上昇し、就寝前であってもリラックスできない状態が続きます。

さらに、スマートフォンやPCの強いブルーライト刺激がメラトニン分泌を妨げるため、入眠が遅れたり、眠りが浅くなったりする傾向も見られます。

このような「情報による覚醒状態」が続くと、睡眠の質が低下し、翌日の集中力・記憶力・感情コントロール能力が低下。結果的に、業務パフォーマンスや対人関係にも悪影響を及ぼすことになります。

人事・組織への示唆

ドゥームストリーミングによる心理的疲弊は、個人の問題にとどまらず、職場全体の雰囲気やチームワークにも波及します。

特に、不安やストレスを抱えた社員はミスや報連相の遅れが増えやすく、組織全体のコミュニケーション・生産性にも影響が出る可能性があります。

そのため、人事部門は「社員の情報との付き合い方」にも関心を持ち、メンタルケアやデジタル・ウェルビーイング支援の一環として、啓発・支援策を検討することが求められます。

組織に及ぶリスク

業務効率の低下

ドゥームストリーミングによって個人の注意力や集中力が奪われると、仕事への没頭感(ワーク・エンゲージメント)が低下します。

SNSやニュースのチェックを繰り返すことで脳が"情報疲労"を起こし、タスク切り替えのスピードや判断力が鈍くなります。結果として、ミスの増加や生産性の低下が生じやすくなり、業務全体の効率を落とす要因になります。

特にリモートワーク環境下では、上司や同僚の目が届きにくいため、知らないうちにドゥームストリーミングの習慣が固定化しやすい点にも注意が必要です。

短時間でもネガティブな情報に触れることで脳のストレス反応が活性化し、集中モードに戻るまでに時間を要する"認知的コスト"が積み重なり、結果的にパフォーマンスが落ちていきます。

チームの雰囲気悪化

個人のネガティブ思考は、チーム全体に伝播しやすい特性を持ちます。「ニュースで景気が悪いらしい」「社会が不安定だ」といった悲観的な会話が職場で増えると、無意識のうちに他のメンバーの気分にも影響を及ぼします。こうした心理的伝染(emotional contagion)は、チームの雰囲気を重くし、前向きなアイデアや挑戦意欲を奪っていきます。

結果として、「失敗を避けたい」「新しいことを提案しても意味がない」といった防衛的な文化が生まれ、組織の成長速度そのものが鈍化してしまいます。 特に管理職がネガティブ情報に引きずられると、チーム全体に不安が広がり、心理的安全性の低下にもつながります。これは、社員が率直に意見を出しにくくなる要因の一つです。

離職リスクの増大

ドゥームストリーミングが慢性化すると、「社会も職場も先行きが暗い」「自分が努力しても変わらない」といった"無力感"が強まります。この状態が続くと、仕事への目的意識やキャリアへの期待を失い、現職に留まる意味を感じにくくなっていきます。

特に若手・中堅層では、「将来への悲観」が転職意向を高める要因になることも少なくありません。組織側から見ると、これは単なるモチベーション低下ではなく、"希望喪失による離職リスク"という深刻な兆候です。加えて、離職者が出ることで残されたメンバーの心理的負担が増し、さらにネガティブな空気が強まるという、悪循環を生むこともあります。

このように、個人の情報行動がチームや組織全体の安定性にまで影響を及ぼす点が、ドゥームストリーミングの見過ごせないリスクなのです。

人事が取れる対応策

1.情報リテラシー研修の実施

まず重要なのは、社員一人ひとりが「情報との健全な付き合い方」を身につけることです。

ドゥームストリーミングは"意識せずに"起きる行動であり、本人が悪いわけではありません。だからこそ、組織として正しい情報リテラシー教育を行い、「どの情報をどのように受け取るか」を考える力を養うことが大切です。研修では、以下のような観点を取り上げると効果的です。

単なる「メディア教育」ではなく、メンタルマネジメントと組み合わせた内容にすることで、社員が日常的に情報の波と上手く付き合う力を育てられます。

2.メンタルヘルス支援体制の強化

ドゥームストリーミングが続くと、不安や無力感、睡眠障害などメンタル面の不調に発展する場合があります。

こうした状況に早期に気づき、支援につなげるためには、社内の相談体制を明確にし、利用しやすい雰囲気をつくることが欠かせません。具体的には、以下のような取り組みが考えられます。

特に、「相談しても評価に影響しない」という安心感を社内で浸透させることが、支援制度を"実際に機能させる"鍵となります。

3.オフライン習慣の推奨

常にデバイスに触れている現代では、「情報から離れる時間」を意識的に取ることが、心身のリセットに大きく役立ちます。

人事部門としては、"オフライン時間を推奨する文化"を組織全体に根づかせる取り組みが効果的です。

たとえば、

こうした仕掛けを通じて、社員が"情報から離れる勇気"を持ち、心の余白を取り戻すことができます。

4.ポジティブ情報の社内発信

ネガティブなニュースが溢れる中で、社内から発信される情報が前向きであることは、社員の心理的安全性を保つうえで大きな意味を持ちます。

人事・広報部門が中心となり、「社内の良い出来事」や「挑戦を讃える文化」を発信していくことで、悲観的な空気に対抗する"ポジティブな土壌"をつくることができます。

小さな成功を見える化することで、「うちの会社は前に進んでいる」という感覚が生まれ、組織全体のエンゲージメントを高めることにもつながります。

まとめ

ドゥームストリーミングは、一見個人の行動習慣のように見えて、実は組織の心理的健全性にも深く関わる課題です。

人事が「情報との健全な関係性」をテーマとして取り上げることは、単なるメンタルケアにとどまらず、社員が安心して挑戦できる環境づくりにもつながります。

小さな一歩からでも構いません。教育・制度・文化の3方向からアプローチし、前向きに働ける組織を築いていくことが重要です。

文責:田辺顕

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