求人は増えているのになぜ採用は難しいのか?~「人がいない」のではなく「欲しい人がいない」採用市場へ~
- 「求人を出しているのに、なかなか応募が来ない。」
- 「応募はあるものの、採用したいと思える人が少ない。」
- 「以前よりも採用に時間がかかるようになった。」
こうした声は、現在の採用現場で珍しいものではありません。
一方で、求人そのものは減っているわけではありません。
2026年6月の転職求人倍率は2.5倍。求人数は前年同月比で16.6%増加しており、企業の採用意欲は依然として高い状態が続いています。
つまり現在の採用市場では、「求人が少ないから採用できない」のではなく、求人が増えているにもかかわらず採用が難しいという、一見すると矛盾した状況が起きています。
なぜ、このようなことが起きているのでしょうか。
求人が増えれば、採用しやすくなるわけではない
一般的に考えれば、企業が多くの求人を出しているということは、それだけ採用市場が活発になっているということです。
しかし、求職者側から見れば状況は逆です。
求人が増えるほど、転職希望者には「選択肢」が増えます。
一人の求職者に対して複数の企業が採用活動を行うようになれば、当然、企業同士の競争も激しくなります。
転職希望者数も前年同月比6.7%増加していますが、求人数はそれを上回る16.6%増でした。
つまり、転職を考える人も増えているものの、それ以上のスピードで企業側の求人が増えているわけです。
- 企業から見れば応募してほしい
- 求職者から見ればどの会社を選ぶか
採用市場の主導権が、企業だけにあるとは言いにくい状況になっています。
「人手不足」と「採用難」は少し違う
ここで考えたいのが、「人手不足だから採用できない」という説明だけで、本当に現在の状況を説明できるのかということです。
もちろん、日本では多くの企業が人手不足を抱えています。
しかし最近の採用市場を見ると、単純に働く人の人数だけが問題になっているわけではありません。
企業が求めているのは、
- 特定分野の経験がある人
- ITやデジタルに強い人
- マネジメント経験を持つ人
- 即戦力として働ける人
- 自社の組織や仕事に合う人
といった、より具体的な条件を満たす人材です。
パソナの2026年4月の市場分析でも、求人倍率は全体で2.03倍、ハイキャリア領域では2.73倍となり、特に即戦力人材への需要が強まっていることが指摘されています。
つまり今起きているのは、「働く人がまったくいない」という問題以上に、「企業が欲しい人材が足りない」という問題なのかもしれません。
採用基準も厳しくなっている
さらに興味深いのは、人手不足だからといって企業が採用基準を下げているわけではないことです。
採用基準については前年より厳しくした企業が多く、今後も経験者採用を強化する企業が多いとされています。
ここに現在の採用市場の難しさがあります。
企業は人が欲しい。しかし、「誰でもいいから採用したいわけではない」のです。
人手不足だからこそ、採用後に活躍してもらわなければ困る。早期離職されても困る。教育に多くの時間をかける余裕もない。
その結果、
- できれば経験者
- できれば即戦力
- できれば自社に合う人
と条件が積み上がっていきます。
しかし当然、そのような人材は多くの企業から求められています。
これが「求人は多いのに採用できない」という状況を生み出している一つの背景です。
求職者側も慎重になっている
企業だけではなく、求職者側の行動にも変化があります。
求人が多いからといって、求職者が簡単に転職を決めるとは限りません。
転職先を決める際には、
- 給与
- 働き方
- 福利厚生
- 職場の雰囲気
- キャリア形成
- 仕事内容
- 会社の安定性
など、多くの条件を比較します。
2026年春の転職市場に関する調査では、人手不足によって企業の採用活動が活発化している一方、求職者の多くが選考ハードルの上昇を感じていることも報告されています。
企業が慎重になり、求職者も慎重になる。
結果として、求人と求職者の双方が存在しているにもかかわらず、なかなかマッチングしないという状況が生まれます。
「求人条件を増やすほど採れなくなる」という問題
採用が難しくなると、企業側はつい、「もっと自社に合う人を探そう」と考えます。
- 主体性がある
- 協調性が高い
- ストレスに強い
- コミュニケーション能力が高い
- 経験もある
- 成長意欲もある
など求める条件が増えていきます。
しかし、条件を追加すればするほど、該当する候補者は当然少なくなります。
ここで人事が一度考えたいのは、「本当にすべての条件が必要なのか」ということです。
例えば、「入社時点で必ず必要な能力」と、「入社後に育成できる能力」を分けて考えるだけでも、採用対象となる人材は大きく変わります。
「良い人」ではなく「自社に合う人」を探す
採用が難しい時代だからこそ、重要になるのが採用基準です。
ただし、「コミュニケーション能力が高い人」「主体性のある人」といった抽象的な基準だけでは、採用の精度はなかなか高まりません。
例えば、自社で実際に活躍している社員を分析して、
- どのような考え方を持っているのか
- どのような仕事を得意としているのか
- どのようなストレスへの耐性があるのか
- どのような行動特性があるのか
といった共通点を整理していく方法があります。
そこで適性検査などを利用し、現在活躍している社員と応募者の特徴を比較することも、一つの方法です。
重要なのは、「世間一般で優秀な人」を探すことではなく、「自社で活躍する可能性の高い人」を探すことです。
採用できない原因を「応募者不足」だけにしない
採用活動がうまくいかないと、「最近は良い人がいない」という言葉が出てくることがあります。
しかし、本当にそうでしょうか。
例えば、
- 求める人物像が高すぎないか
- 必須条件が多すぎないか
- 給与水準は市場と合っているか
- 選考に時間がかかりすぎていないか
- 会社の魅力を十分に伝えられているか
- 面接官によって採用基準が違っていないか
など、企業側にも見直せる部分があります。
採用難の時代ほど、「応募者をどう集めるか」だけではなく、自社の採用そのものを見直すことが重要になります。
まとめ
求人が増えているにもかかわらず、採用は難しくなっています。
その背景には、単純な人手不足だけではなく、
- 企業の採用意欲の高さ
- 即戦力人材への需要
- 求職者の選択肢の増加
- 採用基準の高度化
- 企業と求職者のミスマッチ
といった、さまざまな要因があります。
これからの採用では、「たくさん応募者を集めること」だけでは十分ではありません。
自社にはどのような人が必要なのか。
何を採用段階で求め、何を入社後に育てるのか。
そして、自社で実際に活躍している人にはどのような特徴があるのか。
そうした採用基準を整理することが、これまで以上に重要になっています。
「人がいないから採れない」と考えるだけではなく、「自社はどのような人を探しているのか」を改めて見直す機会が必要です。
求人が増えている今だからこそ、それが採用難を乗り越える最初の一歩になるのではないでしょうか。
文責:田辺顕
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