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リーダーは人の気持ちを理解して事にあたる~徳川家光と阿部豊後守の逸話から考える~

江戸時代の徳川幕府第三代将軍、徳川家光は、徳川十五人の将軍の中でも、特に際立った実績をもち、徳川長期政権の基礎を築いた代表的将軍である。
その家光のはなしとして次のような逸話が残されている。

家光がある年の春、狩に行った日のことである。狩から帰った家光が風呂に入ったとき、何を勘違いしてしまったのか、風呂の係りの者が誤って熱湯を家光にかぶせてしまった。家光の肌はたちまち赤くただれてしまった。さあ、怒ったのは家光である。胆をつぶしてオロオロして、平謝りに謝る風呂係をあとにして部屋にもどると、すぐに老中の阿部豊後守を呼んだ。そして「あの風呂係は不届き者だ。ただちに死刑を申し付けよ。」と命じた。

死罪とはちょっと乱暴すぎるが、しかし天下の将軍の命令だから仕方ない。阿部豊後守も「はい、かしこまりました。」とその命令をそのまま受けた。ところが、いつもはそれでそのまま引き下がっていくのに、このときは、次の間にさがると家光の側近の家来たちに、1つの頼み事をした。「上様のご気分がおちつき、おだやかになったとき、また私に知らせるように」。こういってひとまず退去していった。

さて夜になった。家光は食事をとると気分も落ち着き機嫌もなおった。その日の狩のはなしや成果なども話し始めだんだん笑顔も見せるようになってきた。そこで側近の家来は、阿部豊後守に連絡した「上様のご機嫌がなおりました。非常になごやかなご様子です。」これを聞いた阿部豊後守は、ただちに登城し家光に面会した。「先ほど、風呂係に罰を与えるようご指示いただきましたが、私はその内容をどうもあまりはっきりと覚えておりません。誠に申し訳ありませんが、もう一度ご指示願いますか」。

家光は、すぐには答えず、阿部豊後守の顔を見ながらしばらく考えていた。そしてやがて話し始めた。
「あの者はまったくの不注意からあやまちをおかした。だから八丈島へ流罪を申し付けるようにせよ」。この家光の指示をうけて、阿部豊後守は「かしこまりました。」と引き下がった。阿部豊後守が退出すると、家光のそばにいた側近の家来たちが、さっそく阿部豊後守をサカナにした。「先ほどは、死罪にせよという支持を聞いて、阿部豊後守はたしかに「かしこまりました。」と言ってさがった。それなのに、もう忘れてしまったらしい。阿部豊後守さえ上様のご指示を忘れるほどであれば、たとえわれわれが忘れることがあっても、それは仕方があるまい。」「そうだそうだ。」お口ぐちに言った。

これを耳にした家光はにっこり笑って言った。「あの豊後守が忘れたりするものか。ちゃんと覚えているのだ。ただ死刑に処するということは、天下の政治の中でもとくに慎重に念を入れて行うべきことだ。だから豊後守は知っていて、私に念を押しにきたのだ。それで私も考え直して、死刑より罪を軽くして、流刑にしたのだ。豊後守のやり方は本当にゆきとどいている。それよりむしろ、一時の感情で死罪を口にした私のほうが恥ずかしいと思う」。これを聞いた家来たちは、恐れ入って、もう何も言えなかった。

阿部豊後守は、家光が死刑にせよと命じたこと自体は「かしこまりました。」とそのまま受けている。しかし、それはそれとして実行には移さない。感情的になっているときは、たとえい天下の名君家光でさえも、正しい判断、適切な判断をくだすことはできないのである。しかし、それが適切でないと指摘して改めさせようなどとすれば、なおさら感情を高ぶらせてしまう。それでは説得することは出来ない。

だから、人とは、人物とか人柄とかいったものとあわせて、その人の気持ちの状態、心の状態をも含めてみていかなければいけない。またリーダーとして、そういうものを正しく見つめて、適切な状態において説得するというとも大切なわけである。阿部豊後守のようにたとえ上司に対しても、また、いわば説得なき説得というようなことも、リーダーのイニシアティブという点で重要である。

著:佐藤創紀 →360サポーターズ
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